2022年は、ハンティング・ワールドが誇る「バチュー・クロス」を使ったバッグが登場してちょうど50周年。記念すべきアニバーサリーイヤーに、私たちは改めてその歴史を掘り起こすプロジェクトに取り組みます。今回パートナーとして迎えたのが、2022年にローンチした、クラシックなファッションカルチャーを次世代につなぐWEBマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE』。懐かしくて新しい注目のメディアとのコラボレーションによって解き明かされる、知られざるハンティング・ワールドの世界を、どうぞお楽しみください。
ぼくたち日本人にとって、ハンティング・ワールドとは、ひとつのカルチャーなんだ。そんなふうに実感したのは、数年前にぼくがこのブランドを代表する名品『キャリーオール』を手に入れてからだった。
ちょうどその頃、1970年代後半〜80年代前半のアメリカントラッドが新鮮に思えてきて、当時人気だったというウィリス&ガイガーのハンティングジャケットを古着屋で漁ったり、フレアパンツのスーツをオーダーしていたのだが、そういったスタイルに合わせるバッグとして思いついたのが、ハンティング・ワールド。海外出張が多かった父親や、渋カジだった従兄弟がかつて愛用しており、親しみ深い存在ではあったものの、購入した理由はあくまでファッション軸としての新鮮さにあった。「これ、早いでしょ?」くらいの感覚だ。
しかしこのバッグを持っていると、まあ色んな人から声をかけられる。その多くは、ハンティング・ワールドの黎明期を知る親父世代、もしくは渋カジブームを知る兄貴世代なのだが、ぼくの装いを見た瞬間から思い出話が湧くように出てくる、出てくる。日本においてこのブランドは、単なる一流品とかファッションでは片付けられず、時代ごとのライフスタイルと密接に結びついた存在であり、そこには無数の語り部たちが存在するのだ。
ハンティング・ワールドの公式発表によると、その創業は1965年。ニューヨーク出身の実業家であり、アフリカ旅行をライフワークとする探検家でもあったボブ・リーさんが、自身のこだわりを満たす理想のラゲッジ類をつくるために立ち上げたブランドである。そして様々な試行錯誤を経て、1972年に産み出した素材こそが、あのモスグリーンのナイロン生地、バチュー・クロスだったという。まあ、それくらいのことは、皆さんも知っているかもしれない。
しかし語り部たちから断片的に教わる歴史は、その枠内に収まらないものばかりだった。
曰く「バチュー・クロスはフランスにルーツがあった!」
曰く「渋カジたちの間ではルイ・ヴィトンのボストンバッグと人気を二分していた!」
そして歴史の断片は、さらなる疑問を浮かび上がらせる。
「どうしてニューヨークのブランドが、フランスのバッグから影響を受けたんだろう?」
「ハンティング用につくられたバッグが、なんでラグジュアリーブランドとして人気を集めたんだろう?」
「直営店ができる前、日本ではじめてこのブランドを輸入したのは、どのお店だったんだろう?」etc.
創業者のボブ・リーさんなき今、これらの疑問に答えられる人は、残念ながら、現在のハンティング・ワールドには存在しないらしい。
最近では往年のアメリカントラッドが世界的にリバイバルしており、20代の若者たちの間では、ハンティング・ワールドへの憧れが再燃。ぼくなんてカフェや古着屋のスタッフさんに、何度もこのバッグを褒められている。そんなタイミングだからこそ、単なるトレンドのファッションというだけではなくて、歴史や文化をひっくるめて次の世代に継承したいじゃないか!
というわけで、「ぼくのおじさん」編集人の山下英介が、貴重な証言者たちとともに、ハンティング・ワールドの文化を掘り起こす任を授かった。たまらなく懐かしくてエキサイティングなバチュー・クロスを巡る冒険を、楽しみにお待ちいただきたい。
山下英介