ぼくのおじさん
ぼくのおじさん
「バチュー・クロス」を巡る冒険Collaboration with WEB MAGAZINE 『ぼくのおじさん/MON ONCLE』
Vol.5 ビームス クリエイティブ
ディレクター 中村達也
80年代の黎明期から、
現代のリバイバル現象まで。
ハンティング・ワールドの
40年史

1963年生まれの中村さんは、70年代の第二次アイビーブームをリアルタイムで体験されているわけですが、ハンティング・ワールドの存在を知ったのはいつくらいだったんですか?

中村 確か1980年代の半ば、ぼくがビームスに勤め始めたころですね。当時は街でフィッシングバッグを持つのが流行っていて、イギリスのブレディ、フランスのウプラ、アメリカのグルカといったブランドが人気だったんです。

コットン生地にラバーを挟んだ、クラシックなタイプですね。

中村 その流れでハンティング・ワールドのキャリーオールも街で見かけるようになったのですが、デザインこそフィッシングバッグ的でも、バチュー・クロスは色も質感も、ほかとは全然違いますよね。しかも象のロゴが入っている。このブランドはいったいなんだろう?と思ったのが最初の出会いですね。

当時のバッグ事情って、どんなものだったのでしょうか?

中村 ぼくが中高生だった1970年代は、アメリカ製のデイバッグが多かったですね。その後はL.L.BEANなどのトートバッグ。大学生くらいまではメンズのショルダーバッグって、ほとんど見なかったんですよ。流行り出したのは、ぼくがビームスに入ってからだと思います。

それは意外ですね!

中村 そういえば今はあまり見なくなりましたが、ポーチを持っている男性は多かったですね。

クラッチバッグじゃなくて、ポーチですか?

中村 まさしく、女性が化粧品を入れるのに使うようなヤツです。当時はアメリカのアウトドアブランドや、まだ出始めだった頃のポーターでもつくっていて、ビームスでもよく売れていました。当時は携帯がなかったので、鍵と財布だけ入れてね。

もはや失われた歴史ですね(笑)。そういった時代の中で、ハンティング・ワールドはどんな存在だったんですか?

中村 クラシックな革製品ブランドやアウトドアブランド、狩猟系ブランドが中心だった当時のバッグの世界においては、相当異彩を放っていました。まず見た目が全く違うし、価格的には高級ブランドとしての位置付けでしたが、それらと違って、ロゴが前面に出ているわけでもありませんでしたから。80年代はルイ・ヴィトンやレノマが人気だったのですが、そこまで一般的ではなくて、知る人ぞ知る存在でしたよ。

当時ビームスでは扱っていたんですか?

中村 ビームスというか当時のセレクトショップって、いわゆるラグジュアリーブランドものを扱わないというのがポリシーだったので、扱ってはいませんでした。ただ、ビームスFのお客様で持っている方は多かったですよ。そういうクラシックなスタイルに合わせるような人と、アルマーニのスーツに合わせて六本木で遊んでいるような人(笑)、ふた通りに別れていたような気がします。そういえばアルマーニ系の人は、だいたいポーチを持っていましたね(笑)。

1980年代は、そういう通っぽいイメージだったんですね

中村 大人が持つバッグだったと思います。それから数年で渋カジの子たちが持ち始めて、1990年代には誰もが知るブランドになっていくわけですが。今の若い子たちは知らないと思うけれど、めちゃくちゃ流行っていたんですよ(笑)。

最近では中村さんよりずっと下の世代にあたる30代の若手ファッション業界人たちが、ハンティング・ワールドのバチュー・クロスのバッグを持つようになっていますが、それについてはどのように感じていますか?

しかも今はビームスでも扱っているという。

中村 ただしバチュー・クロスじゃなくて、当時人気だったフィッシングバッグの流れを汲んだ素材なんですけどね。

そこはビームスならではのチョイスだなあ(笑)。しかも今の若い子たちは、ブランド系というよりは、ウィリス&ガイガーみたいなハンティングスタイルや、トラディショナルなスタイルにハンティング・ワールドを合わせていて、とても好感が持てるんですよね。

中村 そういったスタイルのルーツは、1980年代後半から90年代前半にかけて流行っていた、アングロスタイルですよね。英国の伝統的なスタイルをベースにアメリカやフランスなどのアイテムも取り入れるという。

それは面白い。そうなると今季ブルックス ブラザーズとハンティング・ワールドがコラボレートしたのも、ある意味では自然な流れといえるかもしれませんね。

中村 ブルックス ブラザーズにもハンティングバッグはありましたから。そうか、このバッグはネイビーブレザーのイメージなんですね。なるほど、金具は刻印入りの金ボタンで、裏地はレジメンタルストライプのイメージなんだ。

クラシックだけど、とても新鮮ですよね。

中村 ファッションとは常に循環しているものですが、その流れで戻ってくるブランドと、絶対に戻ってこないブランドがありますよね。そういう意味では、ハンティング・ワールドは決してアイデンティティは崩していないのに、今の時代にフィットしているわけだから、珍しいブランドですよね。いいリバイバルをしているな、と思います。

中村 達也

ビームス取締役エグゼクティブクリエイティブディレクター。1963年新潟市生まれ。母の実家は羅紗屋(生地商)、父方の祖父は靴職人という環境のもと、早くからメンズファッションに傾倒。1985年に、大学生時代からアルバイトをしていたビームスに入社。30年以上にわたって要職を歴任し、日本にクラシックファッションの文化を根付かせる。現在はビームスのドレス部門を統括すると同時に、SNSやYouTubeなどで、様々な知識を発信。メンズファッションにおける教授≠ニして、比類なき存在だ。

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