Endless Notes

果てしなく広がる美しい自然界
対極にある、果てのない人間界
環境の今を綴る写真家ノート

近年、気候変動が人々の生活にさらなる影響を及ぼしています。

一方で、人類の営みが火山活動や津波など、
自然現象に匹敵するインパクトを与えてしまっているという事実。

それを直視し、地球環境の現在地について、
写真を介して伝えてきた自然写真家柏倉陽介氏。

彼の姿勢は、人々を雄大な自然へ誘いつつも、
野生動物や美しい自然を守るために
環境保護活動家として活躍したボブ・リーと重なります。

ボルネオ島の野生動物保全活動支援をきっかけに出会った柏倉氏と共に、
自然が魅せる様々な姿を、彼の美しい写真を通してお届けします。 

近年、気候変動が人々の生活に
さらなる影響を及ぼしています。

一方で、人類の営みが火山活動や津波など、
自然現象に匹敵するインパクトを
与えてしまっているという事実。

それを直視し、地球環境の現在地について、
写真を介して伝えてきた自然写真家柏倉陽介氏。

彼の姿勢は、人々を雄大な自然へ誘いつつも、
野生動物や美しい自然を守るために
環境保護活動家として活躍した
ボブ・リーと重なります。

ボルネオ島の野生動物保全活動支援を
きっかけに出会った柏倉氏と共に、
自然が魅せる様々な姿を、
彼の美しい写真を通してお届けします。 

Episode of Borneo island

001_DSC7009_2.jpg__PID:e6647159-aadf-4b1a-8a14-1cce8558fd70002_platform4 (926)_1.jpg__PID:4b1aca14-1cce-4558-bd70-dd997d396703

ボルネオ島は世界有数の熱帯雨林が広がる島です。ボルネオゾウの群れやオランウータンの親子が穏やかに暮らす野生動物の楽園としても有名です。しかし、1970年以降から植物油脂の生産が急拡大し、野生生物の生きる場所が奪われ続けています。

大地を覆い尽くす緑をよく見てみると、
規則正しい模様があることに気がつくでしょうか。
これは熱帯雨林の森ではなく、
アブラヤシの木がびっしりと並んでいる光景です。

大地を覆い尽くす緑をよく見てみると、規則正しい模様があることに気がつくでしょうか。
これは熱帯雨林の森ではなく、アブラヤシの木がびっしりと並んでいる光景です。

アブラヤシから採れる油は パーム油(植物油脂とも表記される)と呼ばれ、 世界各地で消費されています。 お菓子やインスタント麺などの 食品から、化粧品、洗剤といった日用品まで、 私たちの日常生活にとても深く根づいています。

アブラヤシから採れる油は
パーム油(植物油脂とも表記される)と呼ばれ、
世界各地で消費されています。
お菓子やインスタント麺などの
食品から、化粧品、洗剤といった日用品まで、
私たちの日常生活にとても深く根づいています。

004_DSC7227_1.jpg__PID:d2147f53-bc36-47bd-aab4-6557594601ce
005_N6U8331_1.jpg__PID:ddc62684-ab94-433e-8641-7a2a74682772006_MG_3822_1.jpg__PID:c62684ab-9443-4ec6-817a-2a7468277272

現在、ボルネオ島を保有するマレーシアとインドネシア産のパーム油は世界の85%をカバーしています。 国の主要産業に携わる人々には活気があります。村には電気が通り、家や学校、診療所まで作られ、一般的に豊かな生活が手に入ったからです。その結果、たった50~60年でボルネオの熱帯雨林は姿を変えてしまいました。

007_MG_3857_1.jpg__PID:40bf06f5-aef7-43fd-813c-2ae98bf39545008_N6U7103_1.jpg__PID:bf06f5ae-f7e3-4d01-bc2a-e98bf39545c7

家電に囲まれ、車に乗れる。子どもを学校に通わせ、親を診療所に連れていける。その代わり、村の周囲にはアブラヤシしかない世界が広がっています。ゾウもオランウータンも何もかもが姿を消しました。生物多様性にあふれた環境の豊かさを尺度に変えれば、ボルネオ島は世界で最も豊かな土地でありながら最貧の道へと歩んでいるのかもしれません。

009_DSC7324_1.jpg__PID:907023d2-6771-492f-aa75-b0bd3289fab7010_elephant (191)_1.jpg__PID:3e1d26cf-cd2c-4c02-aae7-417707fb2d8d

森から森へと移動するゾウがアブラヤシ農園を横切ることがあります。ゾウはアブラヤシをなぎ倒す害獣として扱われるため、銃で殺されたり、ワイヤーによる罠で命を落とします。そうした行為は違法なのですが、闇で人知れず殺される動物の数は報告されることがありません。

011_process (50).jpg__PID:e88e3107-1116-4047-a77e-ed09ed92741c
012_cage (122).jpg__PID:8e310711-16e0-4727-beed-09ed92741cd6

ペットとして売買されるオランウータンの赤ちゃんの密売は、アブラヤシ農園と深く関わりのある問題でもあります。森を失ったオランウータンは人里や農園に出没することが多くなり、捕獲されやすくなるからです。 唯一の希望として、ボルネオ島にはオランウータンの保護施設が幾つかあります。幼い孤児たちが保護されていますが、常に一緒にいるはずの母親はいません。人間に殺されてしまった可能性が高いことは間違いありません。

013_food (156)_1.jpg__PID:f907e980-9ba8-46de-bae2-35eb26bed428014_DSC6227_1.jpg__PID:07e9809b-a856-4eba-a235-eb26bed4285f

施設では単に保護するだけでなく、再び森に帰るためのトレーニングも行っています。幼いオランウータンはロープを掴むところから練習をはじめ、およそ十年の歳月をかけて森で生きるための知識を学びます。孤児にとって、先輩オランウータンの行動は良いお手本となっています。

015_C9A8819_1.jpg__PID:4e3bf3b2-5716-4095-929b-d5f60111547a016_cage (382)_1.jpg__PID:3bf3b257-1630-4552-9bd5-f60111547a50

母親に抱きついていた頃は平気だったはずが、幼い孤児は高いところが苦手のようです。先輩の身体にしがみついてロープを渡ろうとしません。 トレーニングが終わり檻舎に戻された孤児は、人間に向かって「行かないで」と手を伸ばします。哺乳類で最も長い母子関係を持つオランウータンは親離れが遅く、6~8歳になってようやく母親と別の木で寝るくらいなのですから無理もありません。母親の温もりを覚えているのです。

017_C9A8430_1.jpg__PID:2934d64a-4c41-4f5a-88fe-4c4f25e14997018_DSC5274_1.jpg__PID:34d64a4c-416f-4a88-be4c-4f25e1499708

それでも孤児は毎日のようにトレーニングを続けます。再び森に帰っても生き残るのは難しいことですが、生きようとする意志が瞳に宿っています。それでも外の世界では森が日々減少していきます。施設に保護される孤児も後をたちません。 果てしなく拡大する人間の産業は終わることがありません。

写真家

柏倉陽介 - Kashiwakura Yosuke -

_DSF8946_1.jpg__PID:e025fb56-5a88-4724-ba61-fc1314a208ad

国内外を問わず、自然に関わるテーマを精力的に撮影している。文明と野生の衝突地帯に生きるオランウータンのリハビリテーション風景を中心として、制作に15年をかけた写真集『Back to the Wild 森を失ったオランウータン』を上梓。『オランウータンと緑の津波』と題した巡回展を北海道旭山動物園、えこりん村、円山動物園にて開催した。世界最大の霊長類保護支援団体であるBOS財団が主催する「MOVING PICTURES展」をはじめ、米国立スミソニアン自然史博物館、ロンドン自然史博物館、国連気候変動枠組条約締約国会議にて作品を展示している。LensCulture Earth Awards、ナショナルジオグラフィック国際フォトコンテスト、ワイルドライフフォトグラファー・オブザイヤーなどに入賞し、Monochrome Photography Awards / ランドスケープ・フォトグラファー・オブザイヤーを受賞。Monochrome Photography Awardsの審査員も務めている。2025年より「Endless」と題した環境撮影プロジェクトを開始した。