製品への妥協なき眼差し
大自然と野生生物をこよなく愛するボブ・リーは、冒険家らしい、あるいはブランドの創設者らしいエネルギッシュな一面も併せもっている。「会いたい」と思った人物がいれば、物怖じせずに会いに行って親しくなってしまうという才能は、彼のダイナミックな性格を表す一例だ。前述したイランのアブドレザ王子、ハンターで著述家のジョン・オ・コナー氏、イタリアのクルマ王エンツォ・フェラーリ氏らとの交友も、そんなボブの人柄を物語るものといえよう。そう、ボブの思い立ったらすぐに実行に移す決断力や機動力には人並み以上のものがあるのだ。
デザインワークにも、独自のスタイルがあって興味深い。「アイデアを思いついたら、すぐにメモをするんだ。レストランのペーパーナプキンに書くこともある。でも、イラストは描かない。なぜって大きさの感覚がつかめないからね。バッグのデザインでは厚紙を使い、ハサミで実物大に切り、ステープラーでとじてダミーを作るというやり方なんだ」。アフリカ旅行中、厚紙がなかったため、ベッドのシーツを切ってダミーを作ったこともあったそうな。こんな話もしてくれた。「照準を高く設定し、それを商品化した際にどれだけのコストがかかるかは気にせずにダミーやプロトタイプを作る。作れる限りの最高のモノを作れば、それを買う顧客は必ずいると確信しているよ」。
実は、ボブは疑いなく完璧主義者だ。既存のものに飽き足らず、より良く使えるよう改良を施すのは少年時代からの習いだったし、冒険旅行をさらに快適にするべく、クルマやアウトドア用具などに独自の工夫を凝らすことも怠らず、新しい用具を作るとチームメイトのために使用法をマニュアル化してもいる。当時、ボブのキャンプはアフリカで最も快適で、効率のいい調査チームとして知られ、友人や知人たちからそうした用具の注文が殺到したことが、のちにハンティングワールドというブランドを生み出したのだ。
この姿勢は自社製品に対しても揺ぎなく、たとえば商品開発ではいたずらに妥協することなくクオリティを追求し、工場から送られてきたプロトタイプにも「たいてい1回目は却下。そうだな、だいたい5回目くらいにはOKになるかな(笑)」というほどの徹底ぶりである。しかも、こうした試作品はもちろんのこと、発売後の製品についてももれなく自らフィールドテストを行い、不十分な点があれば繰り返し改良を図り、納得がいくまで完成度を上げていくのが彼の流儀なのだ。加えて、ボブ曰く「ハンティング・ワールドは顧客によって前進しているんだ。特にヘビーユーザーの意見は尊重している」とのこと。同社ではトライアルテストに加え、こうした顧客からの声も活かし、絶えず商品の開発と改善に取り組んできたのだ。


写真左上は、ボブの愛用品のひとつ。自社製品はほぼ全てを自身でトライアルテストしているボブだが、このバッグは「特に気に入っている」とか。写真右上は現行品「バチュー サーパス キャリオール」のルーツにして、かつてブランドを象徴する存在だった「エクスプローラーバッグ ♯6045」。もちろん、これも彼がデザインしたものだ。
ハンティングワールドが、その品質と信頼性の高さをもって世界中からあまねく讃を贈られてきたのは、現状に甘んじることなく、絶えず「最高のモノ」を追い求め続けるボブ・リーの、この妥協なきチャレンジ魂の成せる技なのかもしれない。

ところで、ボブのデザイナーとしての個性とはどのようなものなのだろうか?彼の言にしたがえば、そのポリシーは「シンプル」であるという。’60年代の広告に「クラシック・イズ・フォーエバー(伝統は永遠に)」というコピーがあったのだが、彼の商品作りにはこの「伝統」が強調されている。これをバッグに当てはめると、ボブ曰く「シンプルでなくてはならない。そして組織的に正しくなくてはいけない」となる。「シンプル」はわかるとして、しかし「組織的に正しい」とはどういう意味なのか?これはバッグの例ではないのだが、今回の取材において彼が着用していたジャケット(写真右)を介して理解できた。
それは商品ではないが、ボブが自らのためにデザインし、1960年頃から愛用してきたツイードのジャケットだ。彼は毎年、スコットランドで開催されていてるキジ狩りに参加しているが、そこでは正装が規定で決められている。だから「実際のハンティングと、その後の社交の場の両方で通用するジャケットが欲しくてね。それで、これをデザインした」というのだ。そして、続けて「普通のジャケットは襟に違う布が使用されているけど、これの襟は身頃とつながった一枚の生地で作ってあるんだよ。そのほうが襟がフラットに収まるからね」とも。
ここからわかることは、このジャケットがハンティングにおける動作を妨げないスポーツの性能と、ドレスコードを満たすファッション性を併せ持っており、しかも双方が連続する組織性を備えている点である。すなわち、そこには機能性と社会性が破綻や矛盾なく一体化されており、これをもって、デザイナー、ボブ・リーが語るところの「組織的に正しい」ものの在り方をうかがい知ることができるのだ。
ボブ・リーとハンティングワールド社の姿勢は、高級品ではなく、あくまでもアウトドアブランドとして一流であろうという姿勢だ。直営店にしても必要以上に気どったディスプレイは禁じているほどだ。長年の伝統や文化の上に成立したヨーロッパのラグジュアリーブランドのように顧客に行動規範を求めることはなく、ただひたすら耐久性に富み、徹底的に使いやすく、しかもシンプルでありながらエレガントさももつ、そんな生活に密着したアイテムを展開するブランドなのである。と同時に、個々の商品には「人々に自然とのふれあいを取り戻して欲しい」とのメッセージが込められている。そして実は、これこそが生粋のアウトドアマンたるボブ・リーの揺ぎなき願いなのである。
Life is Adventure

冒険の始まり

アフリカからユーラシアへ

バチュー・クロスという革新
Interview Mr.Bob Lee

自然への限りない愛

製品への妥協なき眼差し

ハンティングワールドの冒険世界 TOPへ

ハンティングワールドの冒険世界 TOPへ
